第二次大戦後のアメリカで,重水素を利用した科学研究が新たな展開を見せ始めた.戦時中にマンハッタン計画の一環で,重水素濃度の精密測定に適した質量分析計が開発されており,重水に関する測定データも蓄積されていたおかげで,重水素に着目した地球化学的な研究が戦後に花開く.また水爆製造との関連で重水の生産量が戦後になって急増したおかげで,科学者は研究に必要十分な量の重水を安価に入手できるようになり,重水を利用した生化学・生理学分野の研究が進んだ.そしてこうした新たな研究の波は発表論文を通して,あるいは共同研究を通して,日本の研究者にも及んだ.