「軍事研究」の戦後史

日本学術会議の「2017年声明」を考える

さる7月2日、北海道大学で開催された「日本平和学会 2017年度春季研究大会」で、標記のタイトルで簡単な報告をした。学会の会員ではないのだが、歴史的な視点からの話題提供が欲しいと言われて、応じた次第である。 口頭発表だけで済ますつもりだったのだが、引き受けた後になって「事前にフルペーパーが欲しい」と言われ、書き始めたら、それなりの分量になってしまった。 会場での質問やその他の機会にいただいたコメン...
中谷宇吉郎

中谷宇吉郎の「この頃の札幌」

ひょんなことから、中谷宇吉郎の書いた「この頃の札幌」という一文を発見した。大森一彦(編)『中谷宇吉郎参考文献目録』にも収録されていない文章かも知れないと思い、念のため、ここに書きとめておく。 北海道放送(HBC)が1957年に発行した『北海道放送開局五周年:HBCテレビ開局記念』という冊子の中ほどに、札幌市外の航空写真(カラー)がページ見開きで掲載されている。その地図の左上に半透明紙が上端だけを糊...
「軍事研究」の戦後史

“軍事研究”にいくら投入されているのか

防衛省(防衛庁)は、毎年度どのくらいの予算を軍事研究に費やしているのだろうか。防衛省(防衛庁)の予算で「研究開発費」として括られている金額が一つの目安になるだろう(注1)。 というわけで、その金額の変化をグラフにしてみた。赤の縦棒が研究開発費の総額(右の軸、単位は億円)で、紫の折線グラフ(左の軸)は、防衛予算全体に占める研究開発費の割合(%)である(右端の2017年度は、概算要求の金額にもとづく)...
「軍事研究」の戦後史

米軍のMATSからの支援

軍(および軍関連機関)からロジスティック面で支援を受ける研究のうち、自衛隊から支援を受けた研究と並ぶもう一つの例は、米軍のMATSからの支援を受けた研究である。 日本物理学会は、会員の求めに応じて臨時に開催された1967年9月の総会で三つの決議を採択した。その三つ目、いわゆる「決議三」は、こう宣言する。 日本物理学会は今後内外を問わず、一切の軍隊からの援助、その他一切の協力関係をもたない。 しかし...
「軍事研究」の戦後史

南極観測隊の派遣と自衛隊(3)

2017年7月26日 追記本稿掲載後、新資料をいくつか発見・閲覧しました。それをもとに本稿に加筆と訂正を施し、拙論「日本学術会議の「2017年声明」を考える」に、補論3として収めました。 南極観測に自衛隊が協力することの是非をめぐる議論は、海上自衛隊の艦船「ふじ」が活躍するようになっても、なお続いた。 1971年12月、「南極地域研究観測について」と題したシンポジウムが開催された。「防衛庁が南極観...
「軍事研究」の戦後史

南極観測隊の派遣と自衛隊(2)

2017年7月26日 追記本稿掲載後、新資料をいくつか発見・閲覧しました。それをもとに本稿に加筆と訂正を施し、拙論「日本学術会議の「2017年声明」を考える」に、補論3として収めました。 日本学術会議の1963年10月の総会(第40回総会)では、この年8月の、自衛隊が南極観測の輸送業務を担当するとした閣議決定が問題となった。 会長の朝永振一郎が会長報告の中で、輸送業務を自衛隊(防衛庁)に担当させる...
「軍事研究」の戦後史

南極観測隊の派遣と自衛隊(1)

『「軍事研究」の戦後史』では、軍事研究の範疇に、「軍(および軍関連機関)が資金、設備、ロジスティック、その他の面で支援する研究」も含まれるとした(注1)。このうち、ロジスティックの面で支援を受ける研究については、本文中で具体例を挙げることができなかった。そこで何回かに分けて、二つの例を挙げておきたい。一つは自衛隊からの支援、もう一つは米軍からの支援である。 2017年7月26日 追記本稿掲載後、新...
「軍事研究」の戦後史

政府から疎んじられた日本学術会議

『「軍事研究」の戦後史』の第5章に引用した新聞社説に、「率直にものを言う学術会議が政府から疎んじられたのは間違いない」というくだりがある(注1)。この一文について、若干の追記をしておきたい。 長年、日本学術会議の会員であった福島要一が、次のように記している(注2)。 学術会議と日本政府との関係を決定的に悪化させた契機が、1964年4月23日の第39回総会における「原子力潜水艦の日本港湾寄港について...
「軍事研究」の戦後史

日本学術会議の会員構成の「偏り」

いま日本学術会議で、防衛装備庁による「安全保障技術研究推進制度」に研究者が応募することの是非をめぐって議論が行なわれている。研究者がこれに応募することは、日本学術会議が1950年代、60年代に確立した基本姿勢の一つ、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」に抵触するのではないか、いや「基本姿勢」のほうこそ見直すべきではないか、などが論点である。 こうした議論において想定されている「研究者」は...
「軍事研究」の戦後史

「行政指導」の例

『「軍事研究」の戦後史』の第6章第4節で、防衛装備庁による安全保障技術研究推進制度について Gerald Hane が、日本には「行政指導」という不透明な手法があるので、慎重に考えたほうがよいと指摘していることを述べた。そこで今回は、軍事に関わる行政指導の事例を一つ紹介しておこう。(ただし、Gerald Hane がこの件を念頭においているという意味ではない。) 1983年11月8日、日本政府は米...